英語教育に人型ロボットを活用する小学校!その取り組みとは?
2018/10/17 提供:D-SCHOOL
2020年度から実施される新学習指導要領では、小学3・4年生で英語の必修化、5・6年生で教科化されることが決まっていますが、すでに先行実施している小学校もあります。今回は、新学習指導要領を先行実施する小学校の中で、人型ロボットNAOを活用した英語教育にチャレンジしている福岡県大牟田市立明治小学校の取り組みをご紹介します。
1.なぜ英語教育に人型ロボットを活用するのか
ALTに頼る小学校の英語教育
生きた英語あるいは使える英語に触れさせるために、小学校では英語教育にALT(外国語指導助手)を採用しています。文部科学省が毎年行う「英語教育実施状況調査」によると、ALTの採用人数は年々増え、ALTを活用する授業時間数も年々増加しています。2016年にはALTの採用人数が前年より985人、2017年には488人も増加しました。つまり、英語教育における最大の課題である「教員の育成」が追いつかず、ALTに頼っているのが現状だということです。
ALT採用の問題点
ネイティブの英語に触れさせることができるALT採用は小学校にとって大きなメリットがある反面、渡航費、給与、保険料などを合わせると、年間費用は数百万円に上ります。ALTの採用人数が増える一方、財政的に採用が困難、あるいは継続しての採用が困難などの問題があり、学校による教育格差が生じることも否定できません。
ALTの役目を人型ロボットへ
ALT採用が困難な場合、発音だけの問題であれば、音声データでも代替可能ですが、生きた英語ではないうえ、面白さもありません。一方、人型ロボットであればALTの役目を果たすことができるだけでなく、子どもの興味を惹きつけることができ、楽しみながらの英語学習が可能となります。もちろん、費用軽減という利点もあるでしょう。
2. 英語教育に人型ロボットを活用する明治小学校とは
早くから英語教育を実施
2008年度から小学5・6年生の英語教育が外国語活動としてスタートし、2011年度に必修化されましたが、福岡県大牟田市では2000年度から全市立小学校で英語活動を開始しています。また、人型ロボットNAOを活用した英語教育にチャレンジしている大牟田市立明治小学校は、指定校や協力校としての実績が豊富で、小学校英語教育のパイオニア的存在と言えるかもしれません。
<明治小学校の実績>
- 2006年度に大牟田市教育委員会の研究指定校に。また、国立教育政策研究所の「小学校における英語教育の在り方に関する調査研究」の協力校に
- 2007年度に文部科学省の「小学校における英語活動等国際理解活動推進事業」の拠点校に
- 2009年度に文部科学省の「外国語活動における教材の効果的な活用及び評価の在り方等に関する実践研究事業」の実践協力校として英語活動の研究を実施
- 2010年度に福岡県の「重点課題研究指定・委嘱事業」の研究校に
- 2017年度に再度、大牟田市教育委員会の研究指定校に。研究内容を他校に紹介
- 2018年度、新学習指導要領に則った英語活動を先行実施
明治小学校が取り組む移行期の英語活動
2017年に告示された新学習指導要領は2020年から実施されますが、明治小学校ではこれまでの成果を踏まえ、2018年より先行して新学習指導要領に則った英語教育を実施しています。その主な内容は以下の通りです。
<3・4年生>年間35単位
- コミュニケーションの素地となる資質・能力の育成
- 幅広い言語に関する能力の育成
- 外国語の音声や基本的な表現へ慣れ親しむ
<5・6年生>年間70単位
- コミュニケーションの基礎となる資質・能力の育成
- 「聞くこと」「話すこと」に「読むこと」「書くこと」をプラス
- 音声から文字へ
- 言語活動を通して、文や文構造の理解
<評価>
「コミュニケーション」「慣れ親しみ」「言語や文化」の観点で評価
3.実際の英語活動
小学1~2年生から始まる英語活動
新学習指導要領を先行実施している明治小学校では、先行実施の前から小学1~2年生で英語活動を開始しています。低学年に限らず、どの学年でも「活動指導案」が設けられ、目標や授業計画が綿密に決められ、使用するフレーズや単語なども明確にされています。以下は、2年生の英語活動の特徴です。
- 歌、チャンツ、ゲームチャンツなど段階的に指導
- 相手の言ったことに対して答える設定のため、必然的に相手の言うことに注意を払う
- 簡単な1から10までの英語表現や “What number do you like?” “I like ~.” を使って英語でコミュニケーション
- “Close!” “Nice.” “Go.” などの言葉で生徒同士が励まし合う
人型ロボットNAOとは
人型ロボットを活用する実際の英語活動を紹介する前に、「人型ロボットNAO」についてご紹介しておきましょう。
<人型ロボットNAOの特徴>
- インタラクティブでカスタマイズ可能なコンパニオンロボット
- 身長 58 cm、体重4.3 kg
- 19カ国語を話せるうえ、動く・感じる・見る・聞く・話すことができる
<動く>
NAOは25の関節により動き、バランスをとる、直立する、横たわるという状態を理解。環境に適応しながら動くことができる。
<感じる>
頭や手足にある音波センサーなどにより環境を感知。自分の居場所も分かる。
<見る>
搭載された2つのカメラにより環境を高解像度画像で把握し、物体や形を認識する。
<聞く・話す>
音波・電波などの強さが方向によって異なる指向性マイクとスピーカーを搭載し、聞く・話すというコミュニケーションを可能にしている。
人型ロボットNAOを活用した小学3年生の英語活動
2017年9月13日に明治小学校に初登校したNAO-kunは、カスタマイズを繰り返し、翌2018年3月23日に全校生徒の前で英語であいさつをしました。5月18日には3年生の英語活動に初登場。今日のフレーズを話し、発音やジェスチャーのモデルとして活躍しています。
その活動は6月8日に「文部科学省の英語教材を使った初のロボット活用授業」として公開されました。公開日の英語表現は “I like ~.” “I don’t like ~.”で、子どもたちはNAO-kunの発言を聞いて、好きなものを当てるゲームなどで楽しく英語を学習し、最後にダンスも一緒にしました。子どもたちは座って先生とNAO-kunの話を聞いているだけはでなく、一緒に体を動かすことで脳も活性化されているはずです。勉強としての「英語」ではなく、コミュニケーションのツールとして楽しく英語活動を始められるのは、苦手意識を感じない英語活動につながることでしょう。
人型ロボットを活用した英語活動では、先生とロボットのやり取りが生徒の興味をうまく引き出すポイントの1つですが、3年生の活動では非常にスムーズだったそうです。このように活動を成功させるには綿密な計画が必要であり、英語が必修化される10年以上も前から英語活動を始めている明治小学校だからこそ実現したのかもしれません。また、この取り組みの最大の成果は、子どもの積極性や失敗を恐れないという子ども本来の長所を引き出している点ではないでしょうか。
明治小学校によると、NAO-kunを活用した授業は、年間を通して週1回実施されるそうです。
まとめ
人型ロボットを英語教育に活用する取り組みは全国でも珍しく、新たな指導法として注目が集まることでしょう。明治小学校の子どもたちは、人型ロボットのNAO-kunがクラスメートのような存在だと言い、英語の授業を楽しみにしているそうです。ALTがいなくても、先生が英語を話せなくても、テクノロジーの力で生きた英語に触れることができる時代になったのは驚きと言ってもいいかもしれません。人型ロボットを活用することで、子どもたちが興味を持って楽しく英語学習できるのは大きな収穫でしょう。人型ロボットを活用した英語活動が全国に広がることを期待しています。